近年、無線機器や電気製品の普及により、人体が電磁界(EMF)にさらされる機会が増えています。
欧州では、人体への影響を防ぐために、さまざまなEMFに関する規制・規格が整備されており、製品によってはEMFについての対応が必要になることがあります。
この記事では、欧州におけるEMF(Electromagnetic Fields)関連の法規制・技術規格の概要を解説します。
※本記事に記載の情報は内容を保証するものではありませんので詳細は規格原文をご確認ください。
法的枠組み:LVD・RED・EMF指令
欧州では以下の指令が人体暴露に関連しています。
LVD(Low Voltage Directive)2014/35/EU
- 電気製品(AC 50〜1000V / DC 75〜1500V)に適用。
- 電磁界(EMF)による人体影響も健康と安全の観点から考慮対象。
- 照明機器・電子商品監視機器・RFID・溶接機器・家庭用電気機器についての人体暴露の規格並びに人体暴露についてのアセスメント規格が整合規格として存在。
RED(Radio Equipment Directive)2014/53/EU
- 無線機器に適用される指令。
- 人体暴露に関しても基本的な安全要求事項として評価が必要。
- 人体に密着もしくは近接して使用する機器の人体暴露規格と基地局に関しての人体暴露規格が整合規格として存在。
EMF関連の指令
- 1999/519/EC:一般公衆に対する電磁界暴露の制限
健康リスクを避けるため、0Hzから300GHzまでの電磁界(EMF)に対する一般公衆の暴露を制限することを目的としている。
1999/519/EC自体は法的拘束力を持たない「勧告(Recommendation)」であるが、多くのEU加盟国がこの勧告を基に国内法や規制を整備している。※当該指令に基づき、より厳しい制限を設けているEU加盟国も存在する。
また、制限値には「基本制限(Basic Restrictions)」(人体内部の影響を基準とする)と「参照レベル(Reference Levels)」(測定や評価のために使う外部電磁界強度基準)の2種類がある。 - 2013/35/EU:労働者のEMF暴露制限に関する指令(労働安全衛生)
健康リスクを避けるため、0Hzから300GHzまでの電磁界(EMF)に対する労働者の曝露を制限することを目的としている。
2013/35/EUは法的拘束力を持つEU指令であり、雇用主に電磁界リスクの評価と管理を義務づけている。EU加盟国はこの指令を自国の労働安全衛生法に取り込み、労働者を電磁界から保護する義務を負っている。また、職場に設置される機器や設備がリスクの原因となるため、製品の製造者もリスク低減設計や適合情報提供を通じて間接的に関与することが求められる。
※当該指令に基づき、より厳しい規制や追加措置を国内法で定めているEU加盟国も存在する。
整合規格の活用
以下のEN規格群は、LVDやREDのEMF要求を満たすための技術基準です。通常は以下のような整合規格を適用して1999/519/ECで示された曝露の制限への適合を示すことになります。
規格は機器の種類、使用状況、ユーザー(一般/作業者)によって使い分けられます。
LVD指令の整合規格
- EN 50364 : 電子商品監視(EAS),無線周波数識別(RFID)及び類似用途用の人体ばく露(0Hz-300GHz)
- EN 50445 : 電気抵抗溶接、アーク溶接および関連するプロセス機器の、人体ばく露(0Hz-300GHz)
- EN 62233 : 家庭用及び類似する電気機器の人体ばく露の測定方法
- EN 62311 : 電子電気機器の人体ばく露に関するアセスメント規格(0Hz-300GHz)
- EN 62479 : 低電力電子電気機器の人体ばく露に関する適合性についてのアセスメント規格(10MHz-300GHz)
- EN 62493 : 照明機器の人体ばく露
RED指令の整合規格
- EN 50360 : 耳のそばで使用される無線機器の人体ばく露に関する製品規格(300MHz-6GHz)
- EN 50385 : 市場導入時における基地局装置の人体ばく露に関する製品規格(110MHz-100GHz)
- EN 50401 : 運用開始時における基地局装置の人体ばく露に関する製品規格(110MHz-100GHz)
- EN 50566 : 人体に近接した手持ち、および身体装着型の無線機器の人体ばく露に関する製品規格(30MHz-6GHz)
その他関連規格
2013/35/EUについては以下関連ガイドライン及び技術基準が存在します。
以下2013/35/EUにおけるガイドライン
- 2013/35/EU指令「電磁界」に基づく実施のための推奨ガイドライン(非拘束的)第1巻 実務ガイド
- 2013/35/EU指令「電磁界」対応のための推奨ガイドライン(非拘束的)第2巻 実例集
- 2013/35/EU指令「電磁界」対応のための推奨ガイドライン(非拘束的) SME向け実務ガイド
※上記のガイドラインは補足資料として欧州委員会(European Commission)のHPに掲載されています。
以下2013/35EUにおける技術基準
- EN 50413 : 電界、磁界、電磁界(0 Hz – 300 GHz)への人体曝露の測定および計算手順に関する基本規格
- EN 50496 : 放送現場での労働者の電磁界への曝露の決定とリスクの評価
- EN 50499 : 労働者の電磁界へのばく露の評価手順
- EN 50527-1 : 能動的な埋め込み型医療機器を所持する労働者の電磁界への曝露の評価手順
- EN 50647 : 電力の生産、送電、配電のための機器および設備からの電界および磁界への労働者の曝露の評価に関する基本規格
- EN IEC 60519-6 : 電熱および電磁処理の設備における安全性-パート6:高周波誘電体およびマイクロ波加熱および処理装置の特定の要件
※上記の規格は、直接的に2013/35/EU指令に整合する規格として明記されていないものの、CENELECでは関連規格として掲載されています。
まとめ
以下の表は、代表的な機器のタイプに対して適用すべき人体暴露の整合規格を参考として記載いたします。
機器タイプ | 主な適用限度値 | 主な適用規格 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
EAS装置,RFID機器など | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 50364 | EASは主に、商品の盗難防止や在庫管理にRFID技術は、物品管理、追跡、アクセス制御などで広く使用されている。 | |
抵抗溶接、アーク溶接および関連するプロセス用の機器など | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 50445 | 産業用または家庭用環境ともに対象。 | |
家電製品および類似機器 | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 62233 | 家庭用及び類似用途の電気機器
(電動工具及び電動玩具含む) |
|
低出力の電気・電子機器 | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 62479 | A/V機器、ITE機器、などの無線送信機を含まないMME機器または放射電力が低い機器などが該当 | |
照明機器 | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 62493 | 産業用、家庭用、公共用、街路灯を含む屋内および/または屋外で使用される照明が該当。 | |
電気・電子機器のアセスメント規格 (0Hz-300GHz)) | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 62311 | 専用の製品規格または製品群規格が適用されない機器に適用。 | |
人体に近接・密着および/または耳のそばで使用する機器 | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 50360, |
スマートフォン、タブレット、ポータブルデバイスなど人体に近接して使用する機器が該当。 | |
無線通信設備(基地局など) | 1999/519/EC or EU加盟国の国内法 |
EN 50385, EN 50401 |
携帯電話基地局、無線通信基地局などが該当 | |
産業装置向け | 2013/35/EU or EU加盟国の国内法 |
非拘束的ガイドライン(第1巻 実務ガイド、第2巻 実例集、SME向け実務ガイド) | 雇用主向けであるが製品の製造業者も間接的に関与。 1999/519/ECやその他関連規格も該当指令に基づいたリスクアセスメントによっては場合により適用される。 |
その他 参考情報
-European Union HP, 1999/519/EC
EUR-Lex – 31999H0519 – EN – EUR-Lex
-European Union HP,
(以下のURLから、EU各加盟国における指令 1999/519/EC の国内法への適用実施状況の報告書が参照でき、勧告より厳しい制限の国を確認できます。※但し追跡調査していないため網羅的かは不明)
EUR-Lex – 52008DC0532 – EN – EUR-Lex
Exposure to electromagnetic fields | EUR-Lex
-European Union HP, 2014/53/EU
Directive – 2013/35 – EN – EUR-Lex
-European Agency for Safety and Health at Work HP
(欧州労働安全衛生機関のHPから2014/35/EUの非拘束的ガイドラインを参照可能)
Non-binding guide to good practice for implementing Directive 2013/35/EU Electromagnetic Fields | Safety and health at work EU-OSHA
-European Union HP,
(以下のURLから、EU各加盟国における指令 2013/35/EU の国内法への転換状況を参照できます。※但し追跡調査していないため網羅的かは不明)
Directive – 2013/35 – EN – EUR-Lex
-総務省資料
資料2-5 職業環境に関する規制について
-株式会社e・オータマ資料
一般公衆の電磁界への曝露の制限 ― 欧州連合理事会勧告 1999/519/EC の概要 ―
労働者の電磁界への曝露の制限 ― EMF指令 2013/35/EU の概要 ―
-JEIC学術情報 HP
100kHz~300GHzまでの高周波電磁界に関するガイドライン | 電磁界情報センター
-EMC & Safety Technical Consultant Japan HP
人体への電磁波照射(人体暴露)に関する規制に、どのような規格があるか! – EMC & Safety Technical Consultant Japan
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