EMC試験におけるシステムの不確かさについて⑤ | Ucispr値の根拠 - 伝導妨害波測定 擬似電源回路網(AMN)

EMC

CISPR 16-4-2では、CISPR 16-2シリーズに基づく測定法に対応したUcisprを決定するための手順が示されています。各付則には、測定装置に起因する不確かさ(MIU)の主な要因を表すモデル式が示されており、各入力量の推定根拠を確認することができます。本記事では、AMN(擬似電源回路網)を用いた電源ポートの伝導妨害波測定(9kHz-150kHz, 150kHz-30MHz)におけるUcisprの根拠について、参考として記載しております。

推定値の決定のための前提条件は、文書化されていますが、これらの前提条件は、個々の試験所に対しては必ずしも適切ではないことが規格によって示唆されています。そのため各試験所が測定装置の拡張不確かさ Ulab を評価する際には、機器の特性、試験場の実際の評価データ、校正デ-タの質(校正周期以内の)、既知の又は適切な確率分布、及び部内の測定手順を含む特定の測定システムに関する情報など、その試験所固有の条件についても追加で考慮する必要があります。

※本記事に記載の情報は内容を保証するものではありませんので詳細は規格原文をご確認ください。

電源ポート伝導妨害波測定(AMN)の不確かさの見積もり

表 B.1 – 50 Ω / 50 µH + 5 Ω の AMN を使用する 9 kHz から 150 kHz までの伝導妨害波測定

入力量 Xi

Xi の不確かさ

ci・u(xi)※1 ci・u(xi)の
分散処理

dB

確率分布関数 dB
測定用受信機の読み Vr ±0.1 k=1 0.10 0.01
減衰量: AMN-測定用受信機 ac ±0.1 k=2 0.05 0.0025
AMNの電圧分割係数 FAMN ±0.2 k=2 0.10 0.01

測定用受信機の補正:
正弦波電圧 δVsw

±1.0 k=2 0.50 0.25
測定用受信機の補正:
パルス振幅応答 δVpa
±1.5 一様(k=√3) 0.87 0.7569
測定用受信機の補正:
パルス繰返し周波数応答 δVpr
±1.5 一様(k=√3) 0.87 0.7569
測定用受信機の補正:
ノイズフロアの影響 δVnf
±0.0 0.00 0.00
AMN VDF 周波数補間 δFAMNf ±0.1 一様(k=√3) 0.06 0.0036
不整合: AMN-測定用受信機 δM ±0.07 U型(k=√2) 0.05 0.0025
AMNインピーダンス δZAMN +3.1/-3.6※2 三角(k=√6) 1.37※2 1.8769
電源供給側からの妨害波の影響 δDmains ±0.0 0.00 0.00
環境の影響 δVenv
ci u(xi)の分散 合計 3.6693
合成不確かさ 1.9155 dB
拡張不確かさ (k=2) 3.83 dB

表 B.2 – 50 Ω / 50 µH の AMN を使用する 150 kHz から 30 MHz までの伝導妨害波測定

入力量 Xi

Xi の不確かさ

ci・u(xi)※1 ci・u(xi)の
分散処理

dB

確率分布関数 dB
測定用受信機の読み Vr ±0.1 k=1 0.10 0.01
減衰量: AMN-測定用受信機 ac ±0.1 k=2 0.05 0.0025
AMNの電圧分割係数 FAMN ±0.2 k=2 0.10 0.01

測定用受信機の補正:
正弦波電圧 δVsw

±1.0 k=2 0.50 0.25
測定用受信機の補正:
パルス振幅応答 δVpa
±1.5 一様(k=√3) 0.87 0.7569
測定用受信機の補正:
パルス繰返し周波数応答 δVpr
±1.5 一様(k=√3) 0.87 0.7569
測定用受信機の補正:
ノイズフロアの影響 δVnf
±0.0 0.00 0.00
AMN VDF 周波数補間 δFAMNf ±0.1 一様(k=√3) 0.06 0.0036
不整合: AMN-測定用受信機 δM ±0.07 U型(k=√2) 0.05 0.0025
AMNインピーダンス δZAMN +2.6/-2.7※2 三角(k=√6) 1.08 1.1664
電源供給側からの妨害波の影響 δDmains ±0.0 0.00 0.00
環境の影響 δVenv
ci u(xi)の分散 合計 2.9588
合成不確かさ 1.7201 dB
拡張不確かさ (k=2) 3.44 dB

 


※1: u(xi) xi の標準不確かさ、cj 感度係数
感度係数は、この規格内のモデル式では、対数表記の線形であるので全ての感度係数 ci は 1
(ci = 1)となる。
※2: 規格内では上下限の平均値を使用。

伝導妨害波測定の入力量の推定値の根拠

規格内では、各入力量に対する推定値の根拠が示されています。以下に、それら推定値の要点を記載します。

・測定用受信機の読み Vr : 測定用受信機の測定値は、測定システムの不安定さ及び指示計の補間誤差を含む要因により変化する。Vrの推定値は、測定値の変動要因を考慮し、安定した信号に対する10回以上の測定平均と、その標準偏差(k=1)で表される。
※3: 追加で推定される場合は参考として、ローデ社では、測定用受信機の仕様に基づいて不確かさを算出できるExcelツールが公開されています。
ローデ HP, 参考資料
Level Error Calculation for Spectrum Analyzers | Rohde & Schwarz

・減衰量: AMN-測定用受信機 ac : 測定用受信機と擬似電源回路網(AMN)を接続する際の減衰量 ac の推定値は、拡張不確かさ及び包含係数と共に、校正証明書から利用することができるものと仮定している。ac の推定値をケ-ブル又は減衰器に添付してある製造業者のデ-タから求める場合には、減衰量に関する製造業者の仕様の許容範囲と等しい半幅を持つ一様分布であるとみなせる。
表 B.1、B.2において0.1dBの拡張不確かさの推定値は包含係数 2 の場合の値である。ケーブル校正にベクトルネットワークアナライザを使用すれば、拡張不確かさの推定値はより低くできる。

・AMNの電圧分割係数 FAMN : FAMN の推定値は、拡張不確かさ及び包含係数と共に校正証明書から利用することができるものと仮定している。

・測定用受信機の補正
正弦波電圧 δVsw : 正弦波電圧精度の補正値 δVsw の推定値は、拡張不確かさ及び包含係数と共に校正証明書から利用することができるものと仮定している。
測定用受信機の正弦波電圧精度が±2 dB以内のみ校正成績書に記載がある場合、補正δVswの推定値はゼロとし、2 dBの半幅を持つ一様分布を仮定する。校正成績書により小さい許容範囲が記載されている場合はその値を不確かさの計算に使用する。また、校正成績書に基準値からの偏差が与えられている場合、校正機関より報告された偏差及び不確かさを使用して、測定用受信機の不確かさを決定することもできる。
パルス振幅応答 δVpa : 一般的に、測定用受信機の不完全なパルス応答特性を補正することは、実現困難である。測定用受信機のパルス振幅応答が尖頭値、準尖頭値、平均値又は実効値-平均値検波に対し、CISPR 16-1-1 に定める許容範囲 ± 1.5 dB を満足していることを示す性能確認報告書を利用できるとする。補正δVpa はゼロとし、1.5 dB の半幅を持つ一様分布に従う。
パルス繰返し周波数応答 δVpr : パルス繰返し周波数応答に関するCISPR 16-1-1の許容範囲は、繰返し周波数と検波器の方式によって変化する。測定用受信機のパルス繰返し周波数応答が CISPR 16-1-1 に定める許容範囲を満足していることを示す性能確認報告書を利用できる。補正δVpr はゼロとし、1.5 dBの半幅を持つ一様分布に従うと仮定している。
パルス振幅応答又はパルス繰返し周波数応答が CISPR 16-1-1 の仕様(α ≤ 1.5)である ± α dB 以内であることが確認された場合には、その応答の補正はゼロとし、α dB の半幅を持つ一様分布に従うとしてもよい。
ノイズフロアの影響 δVnf : CISPR 測定用受信機のノイズフロアは、通常、妨害波電圧の許容値より遥かに低い値であり、許容値近辺ではその影響はごくわずかである。しかしながら、ノイズフロア近辺にある場合、許容値近くの測定結果はその影響を受ける可能性がある。
※追加でノイズフロアの影響を推定する際には、CISPR 16-4-2に記載されている手順が参考になります。規格上は0として仮定されています。

・AMN VDF周波数補間 δFAMNf : 変換係数(AMNなど)が、周波数ごとの校正点間で補間される場合、その不確かさは周波数の間隔や変換係数のばらつきに依存する。電圧分割係数の補正δFAMNfの推定値はゼロであり、0.1 dB の半幅を持つ一様分布と仮定している。

・不整合: AMN-測定用受信機 δM : 不整合による不確かさ
a) 一般事項
一般的に、AMNの測定用補助装置の受信機ポートは反射係数 Γr の測定用受信機によって終端する。ケ-ブル、減衰器、直列接続された減衰器とケーブル、又は、幾つかのほかの組合せ部品が接続されているような 回路網は、S パラメ-タによって表すことができる。この場合の不整合の補正値は、式 (A.3) で表される。

ここに、Γeは、AMN の受信機に接続するポートを考慮した反射係数である。全てのパラメータは 50 Ωに対するものである。パラメータの振幅だけ又は、パラメータの振幅の大きさの両極の値だけが分かっている場合、δMを計算することはできないが、δM の値は、両極の値δM± を示す式 (A.4) の範囲内となる。

δM の確率分布は、(δM+ − δM- )を超えず、およそ U 型であり、標準偏差は √2 で割った半幅を超えない。

b) 妨害波電圧
妨害波電圧測定においては、Γe は、CISPR 16-1-2 において規定された 10 dB 減衰器によって抑制される。したがって、最悪の場合の反射係数の振幅は妨害波電圧に関して|Γe| = 0.1 と仮定されている。同様に、測定用受信機への接続は、減衰量が無視できる(|S21| ≈1)十分に整合の取れたケーブル(|S11|≪1、|S22|≪1)を使用し、測定用受信機のRF減衰量が 10dB 以上に設定されると仮定されている。そのため swr ≤ 1.2 :1 に対する CISPR 16-1-1 の許容範囲は |Γr| ≤0.09 であることを意味する。

・AMN インピーダンス δZAMN : CISPR 16-1-2 で定める 50 Ω / 50 µH + 5 Ω又は 50 Ω / 50 µH の AMN に関するインピ―ダンス許容範囲は、測定用受信機ポ-トを 50 Ω で終端した場合、公称インピ-ダンス絶対値の 20 %及び、公称位相角±11.5°の範囲内であることを要求している。測定用受信機の接続ポートを 50 Ω で終端した場合の AMN の EUT 接続ポートのインピ-ダンスは、複素平面上の公称インピ-ダンスを中心とする半径 20 %の円の内側に存在すると仮定している。補正値δZAMN の推定値はゼロで、定義された周波数範囲で、特定可能な擬似電源回路網インピーダンスと特定できない EUT インピーダンスのあらゆる組合せによって生ずる極端な状態を境界とする確率分布である。確率分布は、三角分布と仮定されている。

・電源供給側からの妨害の影響 δDmains : AMN を使用する測定では、AMN 自身又は必要に応じて付加されたフィルタで電源供給側からの伝導妨害波を減衰できると仮定されている。電源供給側からの妨害波と同じく電源供給側のインピーダンスも不明である。電源供給側からの影響による不確かさの推定は不可能である。ユーザの経験と判断が実際の測定では要求される。したがって、この入力量の推定値は与えられない。※4

・環境の影響 δVenv : 環境(試験場、グランドループ、磁界の影響、測定用補助装置の不完全な接地等)の影響は、CISPR 規格にいくつか提示されているがそれは一般的に定量化できない。※4

※4: 本項目の影響は規格内では考慮されていませんが、再現性や測定環境(特に周囲雑音の影響)を踏まえ、試験所固有の要素を不確かさの評価に加えることが望ましいと考えられます。
(十分な信号対雑音比、システムの繰返し性などから不確かさを求める。)

その他 参考情報

不確かさの概要
EMC試験における不確かさの概念について | EMCエンジニアの雑記ブログ

不確かさ Type Aについて
EMC試験における不確かさの算出方法について | EMCエンジニアの雑記ブログ

不確かさ Type Bについて
EMC試験における不確かさの算出方法について | EMCエンジニアの雑記ブログ

不確かさ Ucisprについて
EMC試験におけるシステムの不確かさについて④ | 不確かさ Ucispr | EMCエンジニアの雑記ブログ

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